パンフレットには「月額利用料 12万円」と書いてあった。
それを信じて入居を決めたのに、最初に届いた請求書は18万円だった。
——ご家族から、本当によく聞くお話です。

私は介護の現場に23年おり、今は主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)として、施設探しのご相談を受けています。そのなかで、いちばん多くて、いちばん深刻なのが「お金の想定外」です。
この記事では、料金表に載っていない費用まで含めて「結局、月いくらかかるのか」を、包み隠さずお伝えします。読み終わるころには、パンフレットを見ただけで「この施設は、実際いくらになりそうか」が見当をつけられるようになるはずです。
「月額利用料」と、実際の請求額はなぜ違うのか
まず、いちばん大事なところからお話しします。
パンフレットに大きく書かれている「月額利用料」は、多くの場合、次の3つだけの合計です。
- 家賃(居住費)
- 管理費(共益費)
- 食費
ところが、実際に届く請求書には、これに加えて次のものが乗ってきます。
- 介護保険サービスの自己負担分
- 医療費・薬代
- 日用品費(おむつ代など)
- 上乗せサービス費(理美容、レクリエーション材料費など)
- 臨時の費用(入院時の費用など)
つまり、パンフレットの月額は「基本料金」であって、「総額」ではないのです。

この差は、月に3万円から6万円ほどになることが珍しくありません。年間にすると、40万円から70万円ほどの開きです。ここを知らずに入居を決めてしまうと、数か月後に「このままでは続けられない」という事態になります。
ここで知っておいていただきたいのは、施設が意図的に隠しているわけではない、ということです。介護保険の自己負担額は要介護度や負担割合で人それぞれ違い、医療費もその方の状態で変わります。だからパンフレットには書けない。書けないからこそ、こちらから聞く必要があるのです。
月額の前に──「入居のときに払うお金」があります
月々の話に入る前に、どうしてもお伝えしておきたいことがあります。
施設の種類によっては、入居するときにまとまったお金が必要になります。呼び方は施設によって違い、「入居金」「前払金」「一時金」「敷金」「礼金」などと書かれています。
おおまかに言うと、こうです。
- 特別養護老人ホームなど公的な介護保険施設……入居金はかかりません
- グループホーム……0円のところもありますが、数十万円までの範囲でかかることがあります
- 有料老人ホーム……0円のところから、数百万円・数千万円という高額なところまで、幅がとても広いです
入居金という言葉に身構える方が多いのですが、正体を知れば怖くありません。これは多くの場合、家賃を何年分かまとめて前払いしているお金です。ですから、入居金が高い施設は月額が安く、入居金0円の施設は月額が高めになる傾向があります。長い目で見れば、総額は大きく変わらないこともあります。
入居金について、必ず確認する2つ
1つ目は「償却」の仕組みです。
入居金は、入居後に少しずつ「使ったこと」にされていきます。これを償却といいます。たとえば「初期償却20%、5年で全額償却」という契約なら、入った瞬間に20%が戻らないお金になり、残りが5年かけて減っていきます。契約書に「初期償却」「償却期間」と書かれているのが、その説明です。
2つ目は「途中で退居したら、いくら戻るか」です。
体調が変わって病院へ移ることも、施設が合わずに住み替えることもあります。返還金の計算方法は、必ず入居前に確認してください。
あわせて、ぜひ知っておいていただきたい決まりがあります。入居からおおむね90日以内に契約を解除した場合、実際にかかった費用を差し引いた入居金が返還されるというルールです(短期解約特例、いわゆる90日ルール)。「入ってみたけれど、どうしても合わなかった」というときの、最後の逃げ道です。
ここを聞かずに契約されて、あとで困られたご家族を、私は何度も見てきました。
料金表に載らない5つの費用
では、具体的に何が乗ってくるのか。ひとつずつ見ていきます。
1. 介護保険サービスの自己負担分
施設で受ける介護サービスには、介護保険が使えます。自己負担は原則1割ですが、一定以上の所得がある方は2割または3割です。
負担額は、要介護度が重いほど高くなります。目安として、特別養護老人ホーム(ユニット型個室)で1割負担の場合、要介護3でおよそ2万5千円前後、要介護5でおよそ2万8千円前後が月額の自己負担になります(※施設の体制や加算により変わります。実際の金額は必ず施設にご確認ください)。
さらに、施設によって「サービス提供体制強化加算」「看護体制加算」などが加わります。これは職員の配置が手厚い施設ほど高くなる仕組みで、金額が高い=ぼったくりではなく、人手が厚いという意味でもあります。
2. 医療費・薬代
意外と見落とされるのがここです。
施設に入居すると、多くの方が訪問診療(協力医療機関の医師が定期的に来る形)を利用します。この費用は介護保険ではなく医療保険から支払われるため、月額利用料とは別に請求されます。
訪問診療、薬代、必要に応じて訪問看護。これらを合わせると、月に5千円から2万円ほどになる方が多い印象です。持病が多い方、点滴や処置が必要な方は、さらに上がります。
3. 日用品費(おむつ代が最大の変動要素)
ここが、施設によっていちばん差が出るところです。
おむつ代が施設の月額に含まれている施設と、実費で請求される施設があります。実費の場合、月に7千円から1万5千円ほどかかることが多く、含まれている施設との差は年間で10万円以上になります。
ちなみに、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの「介護保険施設」では、おむつ代は介護保険給付に含まれるため、別途請求されません。一方、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では実費のことが多いです。
パンフレットの月額だけを比べると「有料老人ホームの方が安い」と見えても、おむつ代を足すと逆転する——これは実際によくあります。
4. 上乗せサービス費
理美容代(月2千円〜4千円ほど)、レクリエーションの材料費、嗜好品、新聞代、居室のテレビの電気代など。
一つひとつは小さいのですが、積み重なると月に5千円から1万円ほどになります。
5. 臨時の費用
これは毎月ではありませんが、必ず心づもりが必要です。
入院したとき、多くの施設では居室を空けておくための費用(家賃相当額)がかかり続けます。「入院中は施設代がかからない」と思っていると、病院の医療費と施設費の二重払いになって驚くことになります。
このほか、契約更新料、看取り期の費用などもあります。
もうひとつの落とし穴──「介護が重くなると、自費が出る」
これは、あまりパンフレットには書かれていないお話です。
介護保険には、要介護度ごとに「1か月に使える上限」が決められています(区分支給限度基準額といいます)。この範囲内なら1割〜3割の自己負担ですみますが、上限を超えて使った分は、全額が自己負担になります。
これが問題になりやすいのが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅です。これらは、施設に住みながら外部の訪問介護などを使う形です。お元気なうちは上限の中で収まりますが、介護が重くなって訪問回数が増えると、上限を超えてしまうことがあります。
「入居したときは月16万円だったのに、2年後には20万円を超えていた」——これは、ご本人の状態が変わったために起きたことで、施設が値上げしたわけではありません。ですが、ご家族には突然の負担増に感じられます。
一方、介護付有料老人ホームやグループホーム、特別養護老人ホームは、介護サービスが施設の料金に組み込まれた形(包括)です。介護が重くなれば介護保険の自己負担は上がりますが、上限超えの自費が急に発生する仕組みではありません。
この「介護サービスが料金に組み込まれているかどうか」の違いは、費用を考えるうえでとても大事なところです。3つのタイプの違いは、こちらの記事で詳しくお伝えしています。
→ 介護付・住宅型・サ高住の違いとは?現役ケアマネが家族目線で解説
だから見学のときは、こう聞いてください。
「介護が重くなったとき、費用はどう変わりますか」
この質問に、具体的な例を出して答えてくれる施設は、先々まで一緒に考えてくれる施設です。
モデルケースで見る「結局いくら?」
ここまでの費用を積み上げると、どうなるか。3つのパターンでご覧ください。
※以下はあくまで目安です。地域、施設の体制、その方の要介護度・所得・健康状態によって大きく変わります。必ず、検討中の施設で見積もりを出してもらってください。

ケースA:特別養護老人ホーム(ユニット型個室)/要介護3・1割負担
- 居住費・食費:約9万円
- 介護保険自己負担:約2万5千円
- 医療費・薬代:約7千円
- 日用品・その他:約5千円
- 合計:月13万円前後
※所得の低い方は「負担限度額認定」(後述)により、居住費・食費が大きく軽減されます。この制度を使うと、月8万円前後まで下がることもあります。
ケースB:住宅型有料老人ホーム+訪問介護/要介護2・1割負担
- 家賃・管理費・食費:約13万円
- 介護保険自己負担(外部の訪問介護などを利用):約2万円
- 医療費・薬代:約1万円
- おむつ代・日用品:約1万5千円
- 合計:月17万5千円前後
※入居金0円の施設を想定しています。入居金がある施設は、ここに初期費用が加わります。
※住宅型有料老人ホームは、介護サービスを外部の事業所と個別に契約する形が基本です。そのため「どれくらいサービスを使うか」で自己負担が変わります。
ケースC:グループホーム/要介護2・1割負担
- 家賃・食費・管理費:約10万円
- 介護保険自己負担:約2万2千円
- 医療費・薬代:約7千円
- おむつ代・日用品:約1万円
- 合計:月14万円前後
こうして並べると、パンフレットの月額に、おおむね3万円から5万円を足したあたりが「実際の総額」だとお分かりいただけると思います。見学のときは、この足し算を頭に置いてください。
「年金だけで入れますか」への、正直な答え
ご家族から必ず聞かれる質問です。私はいつも、こうお答えしています。
「施設の種類と、使える制度によっては、可能です。ただし、何もしないままでは難しいことが多いです」
ここでお伝えしたいのは、知っているかどうかで数万円変わる制度があるということです。
負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)
介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、ショートステイ)を利用する方のうち、所得や預貯金が一定以下の方は、居住費と食費が軽減されます。
軽減額は段階によって変わりますが、月に数万円下がる方もいます。年金収入だけで生活されている方にとっては、入居できるかどうかを左右するほど大きい制度です。
申請先はお住まいの市区町村です。申請しなければ適用されません。 ここが一番の落とし穴です。
なお、この制度は有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅には使えません。「年金の範囲で」とお考えなら、まず介護保険施設を検討されるのが現実的です。
高額介護サービス費
1か月に支払った介護保険の自己負担額が上限を超えたとき、超えた分が後から払い戻される制度です。上限額は所得によって異なります。
こちらも申請が必要ですが、一度申請すれば以降は自動的に振り込まれる自治体が多いです。
世帯分離という選択肢
ご本人と、同居しているご家族の世帯を分けることで、負担限度額認定などの判定が変わる場合があります。ただし、他の制度(国民健康保険料や税の扶養)に影響することもあるため、必ず市区町村の窓口や担当ケアマネジャーに相談してから判断してください。
生活保護を受けている方は、施設に入れないのか
「生活保護だから、施設なんて無理ですよね」——そうおっしゃるご家族がいます。
そんなことはありません。生活保護を受けていても、入居できる施設はあります。
生活保護には、家賃にあてる「住宅扶助」、生活費にあてる「生活扶助」、そして介護サービスの自己負担分をまかなう「介護扶助」があります。介護扶助があるので、介護保険の自己負担分は、原則としてご本人の持ち出しになりません。
ポイントは、家賃や食費が扶助の範囲内におさまる施設を選ぶことです。特別養護老人ホームのほか、生活保護の方の受け入れを行っている住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅もあります。受け入れの体制は施設によって違いますので、見学や問い合わせのときに「生活保護を受けているのですが、入居はできますか」と、最初に聞いてしまってください。受け入れ経験のある施設なら、手続きの流れまで教えてくれます。
そして、必ず担当のケースワーカーさんに早めに相談してください。施設探しとお金の段取りを、一緒に進めてくれます。
それでも足りないときは
正直に申し上げます。すべての制度を使っても、年金だけでは届かないことはあります。
そのときは、無理に施設入居を決めるのではなく、在宅介護+ショートステイの組み合わせという選択肢もあります。月に何日かショートステイを使うことで、ご家族の負担を減らしながら、費用は施設入居より抑えられます。
「施設に入れないと親を守れない」——そう思い詰めているご家族に、私はよくこの話をします。守り方は、ひとつではありません。
見学のとき、費用はこう確認する
ここまで読んでくださった方に、明日から使える質問を6つお渡しします。見学のときに、そのまま聞いてください。
質問1「月額の他に、平均でどれくらいかかっていますか」
いちばん大事な質問です。この質問への答え方で、その施設の誠実さが分かります。
「人によりますが、だいたい○万円くらいの方が多いです」と具体的に答えてくれる施設は、信頼できます。「ほとんどかかりません」と即答する施設は、少し用心してください。
質問2「おむつ代は月額に含まれていますか」
含まれていない場合は、「だいたい月いくらくらいですか」まで聞いてください。年間で10万円以上の差になる項目です。
質問3「医療費の支払いは、どういう形になりますか」
協力医療機関はどこか、訪問診療は月何回か、費用は施設に一括で払うのか病院に別途払うのか。ここを確認しておくと、請求書が届いたときに驚きません。
質問4「実際の請求書のサンプルを見せていただけますか」
個人情報を伏せた形で見せてくれる施設があります。見せてくれる施設は、かなり信頼できます。 断られたとしても、その反応から分かることがあります。
質問5「介護が重くなったとき、費用はどう変わりますか」
先ほどお伝えした「上限超えの自費」を確かめる質問です。とくに住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を検討されている方は、必ず聞いてください。
「たとえば要介護4になられた方だと、だいたいこれくらいです」と実例で答えてくれる施設は、先々まで見てくれる施設です。
質問6「入居金は、途中で退居したら返ってきますか」
入居金がある施設だけの質問です。返還の割合と、いつまでなら戻るのか。この2つを、口頭ではなく契約書のどこに書いてあるかまで示してもらってください。
見学のときに何を見ればいいかについては、こちらの記事で詳しくお伝えしています。あわせてお読みください。
→ 施設見学で「ここだけは見て」——プロが必ずチェックする6項目
よくある質問
Q1. パンフレットに「月額15万円」とあります。実際はいくら見ておけばいいですか。
A. 目安として、プラス3万円から5万円を見ておいてください。つまり18万円から20万円です。ただし、おむつを使わない方、持病が少ない方はもっと抑えられますし、医療的な処置が多い方はさらにかかります。正確な金額は、その方の要介護度・負担割合・健康状態を伝えたうえで、施設に見積もりを出してもらうのが確実です。
Q2. 入居後に費用が上がることはありますか。
A. あります。主な理由は4つです。①要介護度が上がって介護保険の自己負担が増えた、②医療的なケアが必要になった、③介護保険で使える上限を超えて、その分が全額自己負担になった(住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で起こりやすい)、④施設が料金改定をした。①〜③はご本人の状態の変化によるもので、避けられないこともあります。契約前に「料金が変わるのはどんなときですか」と確認しておくと安心です。
Q3. お金が足りなくなったら、退去しなければいけませんか。
A. すぐに退去とはなりません。まずは担当のケアマネジャーか施設の相談員に、正直に相談してください。負担限度額認定や高額介護サービス費など、まだ使っていない制度が見つかることがあります。それでも難しい場合は、より費用の抑えられる施設への住み替えを一緒に考えます。一人で抱え込まないことが、いちばん大事です。
まとめ──総額を知ることは、暮らしを守ること
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 月額の前に、入居金(前払金)の有無と、途中退居したときの返還ルールを確認する
- パンフレットの「月額利用料」は基本料金。実際の総額はプラス3万円〜5万円が目安
- 乗ってくるのは、介護保険の自己負担・医療費・日用品費(おむつ代)・上乗せサービス費・臨時の費用
- 介護が重くなると、介護保険の上限を超えた分が全額自己負担になることがある
- 負担限度額認定は、申請しなければ適用されない。介護保険施設を検討するなら必ず確認を
- 見学では「月額の他に、平均でいくらかかっていますか」と聞く
お金の話をするのは、気が引けるものです。「親のことなのに、お金の心配をするなんて」と、ご自身を責めてしまう方もおられます。
でも、私はこう思っています。総額を知ることは、その方の暮らしを最後まで支えるための準備です。 途中で続けられなくなって、慌てて住み替えることになる方が、ご本人にとってはずっとつらいのです。
分からないことは、担当のケアマネジャーや施設の相談員に、遠慮なく聞いてください。私たちは、そのためにいます。
施設探しをこれから始める方は、こちらの記事から読んでいただくと、順を追って進められます。
→ 「親の介護、そろそろ施設かも…」と思ったら最初にやる3つのこと
