「見学に行っても、正直、何を見ればいいのか分かりません」

施設探しを始めたご家族から、必ずと言っていいほどいただく言葉です。
こんにちは。介護の現場で23年、いまは主任ケアマネジャー(介護支援専門員)として働いています。これまで400件を超えるご家庭の施設選びに関わり、私自身、数えきれないほどの施設を見学してきました。
パンフレットは、どの施設もきれいです。ホームページの写真は、どこも明るくて広々としています。だからこそ、見学は「パンフレットに載っていないもの」を見に行く時間です。
この記事では、私たち介護のプロが見学で必ずチェックしている6つのポイントを、そのまま公開します。あわせて、見学の場でそのまま使える質問の言い方もお伝えします。メモ代わりにスマホでこのページを開いたまま、見学に行っていただいて構いません。
なお、「そもそも施設探しを何から始めればいいか」という段階の方は、先にこちらの記事からどうぞ。
→ 「親の介護、そろそろ施設かも…」と思ったら最初にやる3つのこと

まず、見学の予約時にひとつだけ
本題の前に、予約の電話でできる大事な一工夫があります。
できれば、食事の時間帯に見学させてもらえないか聞いてみてください。
午後のおやつ後、入居者さんがお部屋で休んでいる時間の見学は、施設側にとって「いちばん見せやすい時間」です。逆に、昼食の前後は、その施設の実力がいちばん表に出る時間です。食事の介助が丁寧か、食堂の空気が穏やかか、職員さんに余裕があるか。
「昼食の時間帯は難しいです」と言われても、それだけで悪い施設と決めつける必要はありません。ただ、快く「どうぞ」と言ってくれる施設は、日常に自信がある施設です。
項目1|玄関を入って10秒の「におい」
見学で最初にチェックすべきは、説明でも設備でもなく、においです。
玄関を入った瞬間、排泄のにおいが残っていないか。
介護の現場では排泄のケアは日常ですから、一時的ににおうことは、正直あります。問題は「残っているかどうか」です。排泄のにおいがこもったまま残っている施設は、掃除と換気、つまり清潔ケアの手が回っていない可能性があります。
逆に、強すぎる芳香剤のにおいにも、少しだけ注意してください。何かを消すためににおいを重ねている場合があるからです。
いちばん良いのは、「何のにおいもしない」か、食事どきなら「ごはんのにおい」がすることです。
項目2|職員さんの「声かけ」と表情
次に見るのは、設備ではなく人です。廊下ですれ違う職員さん、フロアで働く職員さんが、入居者さんにどう声をかけているかを見てください。
チェックポイントは3つです。
- 呼び方……「○○さん」と名字で呼んでいるか。「おばあちゃん」「ちゃん付け」ばかりの施設は、敬意の文化が緩んでいるサインです
- 目線……車いすの方に話すとき、腰をかがめて目の高さを合わせているか
- 見学者への挨拶……すれ違う職員さんが、見学者のあなたにも自然に挨拶するか
なかでも「呼び方」は、その施設の文化がいちばん正直に出るところです。文化は一日ではつくれません。見学のときだけ取り繕うことも、まずできません。
項目3|入居者さんの表情と、日中の過ごし方
続いて、そこで暮らす方々の様子です。少し言いにくいことも、正直に書きます。
フロアに出ている入居者さんが、テレビの前に一列に並べられたまま、誰も見ていないテレビが流れている——。残念ながら、こうした光景がある施設は、いまも存在します。
見ていただきたいのは、次の点です。
- 入居者さんの表情に、動きがあるか(笑う、話す、うとうとする、それぞれでいい)
- 何かしらの活動(体操、家事、趣味、会話)をしている方がいるか
- 職員さんと入居者さんの間に、業務以外の雑談があるか
全員が生き生きしている必要はありません。お体の状態は人それぞれだからです。ただ、「人が暮らしている空気」があるかどうかは、フロアに数分立つだけで感じ取れます。ご自身の直感を信じてください。
項目4|掲示物とカレンダーの「鮮度」
地味なようで、プロがこっそり必ず見るのがここです。
壁に貼られた行事の写真、活動予定表、献立表。その日付を見てください。
- 行事の写真が半年前、1年前で止まっていないか
- 今月の活動予定表が、ちゃんと貼られているか
- 献立表と、実際に運ばれている食事が合っているか
掲示物が古いまま止まっている施設は、「行事をやる余裕がなくなっている」か「外に見せる意識が薄れている」かのどちらかであることが多いです。毎月の掲示がきちんと更新されている施設は、日々の運営が回っている施設です。
項目5|質問への「答え方」——正直さを測る
見学の後半には、たいてい質問の時間があります。ここで施設の説明のうまさを見る必要はありません。見るべきは、正直さです。
おすすめの質問はこれです。
「こちらの施設が苦手なこと、対応が難しいことは何ですか?」
この質問への答え方で、施設の誠実さがかなり分かります。
- 「なんでもできます」「どんな方でも大丈夫です」……少し警戒してください。介護に「なんでも」は存在しません
- 「夜間の医療対応には限りがあります」「認知症の症状によっては、ご相談しながらになります」……具体的に”できないこと”を言える施設は、信頼できます
できないことを正直に言うのは、勇気がいります。その勇気がある施設は、入居後に困りごとが起きたときも、正直に相談してくれる施設です。
項目6|夜間の体制と、医療との連携
最後は、パンフレットではいちばん分かりにくく、暮らしにはいちばん響くところです。次の3つは、必ず数字で聞いてください。
- 「夜間は、何人の職員さんが何階を見ていますか?」……日中の人数ではなく、夜の人数です
- 「急に体調が悪くなったときは、どういう流れになりますか?」……協力医療機関の名前と、夜間の連絡体制まで聞けると安心です
- 「看取りまで対応されていますか?」……最期までここで暮らせるのか、状態が変わったら住み替えが必要なのかは、施設の種類によっても異なります
3つ目は、聞きにくい質問かもしれません。でも、入居後に「ここでは看取りはできません」と初めて知る方を、私は何人も見てきました。元気なうちに聞いておくことが、親御さんを守ります。
なお、施設の種類(介護付き・住宅型・サ高住)によって、医療や介護の体制はそもそも大きく違います。種類ごとの違いは、こちらの記事で整理しています。
→ 介護付?住宅型?サ高住? 3つの違いを現役ケアマネが家族目線で解説します
そのまま使える「見学の質問」7選
最後に、この記事の質問をまとめておきます。見学のとき、このまま読み上げて構いません。
- 「昼食の時間帯に見学させていただくことはできますか?」(予約時)
- 「入居されている方は、日中どんなふうに過ごされていますか?」
- 「こちらが苦手なこと・対応が難しいことは何ですか?」
- 「夜間は何人の職員さんが対応されていますか?」
- 「急変時の流れと、協力医療機関を教えてください」
- 「看取りまで対応されていますか?」
- 「入居されている方やご家族から、最近どんなご意見がありましたか?」
ぜんぶ聞けなくても大丈夫です。2つか3つ聞けば、施設側も「よく調べてこられたご家族だ」と分かります。それだけで、その後の対応が丁寧になることも、現場では実際にあります。
まとめ|見学は「設備」ではなく「文化」を見に行く
6項目を、もう一度並べます。
- 玄関を入って10秒のにおい
- 職員さんの声かけと表情(とくに呼び方)
- 入居者さんの表情と日中の過ごし方
- 掲示物とカレンダーの鮮度
- 質問への答え方(できないことを言えるか)
- 夜間の体制と医療連携(数字で聞く)
お気づきかもしれませんが、6つのうち設備の話はひとつもありません。建物の新しさは、暮らしの質とあまり関係がないからです。見に行くのは、設備ではなく文化です。そして文化は、においや呼び方や掲示物のような、小さなところに必ず表れます。
一度の見学で全部を見抜けなくても大丈夫です。迷ったら、二度目の見学をお願いしてください。時間帯を変えて二度見ると、施設の姿は立体的に見えてきます。二度目を快く受け入れてくれるかどうかも、また一つの判断材料です。
あなたと親御さんが「ここなら」と思える場所に出会えるよう、この6項目がお守り代わりになれば幸いです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 施設見学は、アポなしで行ってもいいですか?
A. 必ず事前に予約してください。アポなし訪問は施設側の負担になるうえ、ゆっくり案内してもらえません。ただし、予約した見学の前後に、外から建物の周りや出入りの雰囲気を見ておくのは有効です。
Q2. 見学には、本人(親)を連れて行くべきですか?
A. 最初の1〜2件はご家族だけで見学し、候補を絞ってからご本人と一緒に行くのがおすすめです。最初からご本人を連れて回ると、体力的な負担が大きく、「連れ回されて決めさせられた」という気持ちが残ることもあります。
Q3. 見学は何件くらいすればいいですか?
A. 目安は2〜3件です。1件だけでは比べる物差しがなく、5件を超えると印象が混ざって決められなくなる方が多いです。この記事の6項目を同じ順番でチェックすると、比較がしやすくなります。
※本記事の内容は2026年7月時点の一般的な情報です。施設の体制・入居要件の詳細は、各施設に直接ご確認ください。