「親の介護、そろそろ施設かも…」と思ったら最初にやる3つのこと

「親の介護、そろそろ施設かも…」

この言葉を、声に出して言えたことはありますか。

多くの方は、言えません。頭の中に浮かんでは、打ち消して。また浮かんでは、「まだ大丈夫」と蓋をして。夜中にスマホで「老人ホーム 費用」と検索して、そっと履歴を消す。そんな日々を送っている方が、本当にたくさんいらっしゃいます。

はじめまして。介護の現場で23年、いまは主任ケアマネジャー(介護支援専門員)として働いています。これまで400件を超えるご家庭を担当してきました。

最初にお伝えしたいことがあります。

「そろそろ施設かも」と思ったこと自体は、裏切りでも、あきらめでもありません。

それは、あなたが親御さんの変化を誰よりも近くで見てきた証拠です。そして、その「かも」が頭に浮かんだ日こそ、実は一番大事な日です。なぜなら、施設探しは「限界が来てから」始めると、選択肢がほとんど残っていないからです。

この記事では、「そろそろ施設かも」と思ったときに、最初にやるべきことを3つだけに絞ってお伝えします。逆に「今はやらなくていいこと」もお伝えします。読み終わる頃には、「何から手をつければいいのか分からない」という霧が、少し晴れているはずです。

なぜ「限界が来てから」では遅いのか

現場で長く働いていると、施設探しには2つのパターンがあることに気づきます。

ひとつは、余裕のあるうちに動き始めたご家族。じっくり見学して、費用を比較して、親御さん本人の気持ちとも折り合いをつけて、「ここなら」と思える住まいを選ばれます。

もうひとつは、限界が来てから動き始めたご家族。介護している側が体調を崩した、親御さんが転倒して入院した、退院日が決まっているのに行き先がない——。こうなると、選択肢は「今すぐ入れるところ」だけになります。費用も、場所も、雰囲気も、比べる時間がありません。

どちらのご家族も、親御さんを思う気持ちは同じです。違ったのは、動き始めたタイミングだけでした。

「そろそろかも」と思った今は、まだ余裕のあるうちです。だからこそ、今日できる小さな一歩を3つ、お伝えします。

最初にやること①:要介護認定を確認する

最初の一歩は、施設のパンフレット集めではありません。「要介護認定」の状態を確認するとです。

要介護認定とは、介護がどれくらい必要かを市区町村が判定する仕組みで、「要支援1・2」「要介護1〜5」の7段階があります。介護保険のサービスを使うにも、多くの施設に入るにも、この認定が出発点になります。

確認することは2つです。

まだ認定を受けていない場合 → 親御さんがお住まいの市区町村の窓口か、地域包括支援センター(後ほどご説明します)で「要介護認定の申請」をしてください。申請から結果が出るまで、おおむね1ヶ月ほどかかります。「まだサービスを使う予定がなくても、申請だけ先にしておく」——これが現場からの率直なおすすめです。結果が出るまでの1ヶ月は、待っているだけで過ぎてしまうからです。

すでに認定を受けている場合 → 介護保険証で「要介護度」と「有効期間」を確認してください。そして大事なのがここです。認定を受けたときより、明らかに状態が変わっていませんか。転倒が増えた、食事の量が減った、夜間に混乱することが出てきた——。当てはまるなら、「区分変更申請」といって、認定のやり直しを申請できます。実際の状態より軽い認定のままだと、使えるサービスも、入れる施設の選択肢も狭くなってしまいます。

申請に行くときの持ち物も、先にお伝えしておきます。介護保険被保険者証(65歳になったときに市区町村から届く保険証)、マイナンバーが分かるもの、かかりつけ医の名前と病院名のメモ。この3つがあれば、窓口で困ることはほぼありません。かかりつけ医の名前と病院名のメモが必要なのは、認定の過程で市区町村がお医者さんに意見書を依頼するためです。

なぜこれが最初なのか、施設の多くは、要介護度によって入れる・入れないが決まるからです。たとえば特別養護老人ホーム(特養)は原則「要介護3以上」。認定が実態に合っていないと、本当は入れるはずの施設が候補から消えてしまいます。

最初にやること②:親の「今」を書き出して整理する

2つ目は、紙とペンがあればできます。親御さんの「今」を書き出すことです。

施設探しを始めると、見学先や相談先で必ず同じことを聞かれます。そのたびに記憶をたどって答えるのは大変ですし、聞かれて初めて「そういえば、ちゃんと把握していなかった」と気づくことも多いのです。

書き出すのは、次の4つで十分です。

1. 体と生活のこと
歩行の状態(杖・歩行器・車いす)、食事(自分で食べられるか、むせはないか)、トイレ、入浴、着替え。「ひとりでできる/手伝えばできる/できない」の3段階でざっくりで構いません。

2. 医療のこと
持病、飲んでいる薬、かかりつけ医、通院の頻度。お薬手帳をスマホで撮影しておくだけでも立派な整理です。

3. お金のこと
親御さんの年金月額、預貯金のおおよそ、本人名義の保険。ここは親子でも聞きにくいところですが、施設選びでは避けて通れません。「施設のことを考え始めたから、一度だけ教えてほしい」と正面から聞くのが、結局いちばんこじれません。

4. 本人の気持ち
親御さんが日頃こぼしている言葉を、そのままメモしてください。「家がいい」「迷惑をかけたくない」「お風呂がおっくうになった」——。この生の言葉が、後で施設を選ぶときの道しるべになりますし、ケアマネジャーや相談員に伝わる何よりの情報になります。

書き方に決まりはありませんが、イメージが湧くように一例を挚げます。

「歩行:家の中は伝い歩き、外は杖でも不安」「食事:自分で食べるが、最近むせる」「薬:朝5種類・お薬手帳は仏壇の引き出し」「年金:月13万円くらい」「本人の言葉:『施設には行きたくない。でも、おまえに迷惑はかけたくない』」

——この程度の走り書きで十分です。きれいな書類ではなく、親御さんの暮らしがそのまま見えるメモこそ、プロが一番ほしい情報です。

この4つが1枚にまとまっていると、この先のすべての相談が驚くほどスムーズになります。現場の私たちも、こうしたメモを持ってこられるご家族には「この方は本気で親御さんのことを考えてこられたんだな」と、身が引き締まります。

最初にやること③:「ひとりで抱えない体制」をつくる——相談先の確保

3つ目が、実はいちばん大事です。プロの相談先を確保することです。

「家族のことだから、家族で何とかしないと」と思っていませんか。介護の道のりは長距離走です。伴走者なしで走り切れる距離ではありません。

まず覚えていただきたい名前がひとつだけあります。「地域包括支援センター」です。

地域包括支援センターは、高齢者の暮らしに関する「よろず相談窓口」で、中学校区にひとつくらいの割合で、全国に設置されています。相談は無料。「親のことで、そろそろ施設も考え始めていて…」という、まだふわっとした段階の相談で構いません。というより、ふわっとした段階でこそ行ってほしい窓口です。

「◯◯市 地域包括支援センター」で検索すると、親御さんの住所地の担当センターが出てきます。電話でも、窓口でも大丈夫です。

初めての相談で聞かれるのは、だいたい「親御さんの年齢とお住まい」「今の暮らしで困っていること」「介護保険の認定の有無」の3つです。うまく説明できなくても大丈夫です。②で作った1枚のメモを持っていれば、それだけで話が通じます。相談したからといって、施設入居を勧められたり、何かの契約をさせられたりすることはありません。

すでにケアマネジャーが付いている場合は、まずその方に「実は、施設も視野に入れ始めています」と伝えてください。言い出しにくく感じるかもしれませんが、私たちケアマネにとって、これは「よくある相談」ではなく「大事な相談」です。少なくとも私は、この一言を切り出してくださったご家族に、「よく言ってくださいました」と思うことはあっても、悪く思ったことは一度もありません。

もうひとつだけ、お伝えさせてください。迴い詰められてくると、「仕事を辞めて介護に専念するしかない」という考えが頭をよぎることがあります。でも、辞める決断だけは、どうか相談のあとにしてください。介護休業など、仕事と介護を両立するための制度もありますし、収入が途絶えると、親御さんを支える力そのものが細ってしまいます。「辞める前に、まず包括に相談」。この記事から一つだけ持ち帰るなら、これでも構いません。

逆に、今はやらなくていいこと

3つの一歩をお伝えしたので、今度は「やらなくていいこと」です。頑張り屋のご家族ほど、最初から全部やろうとして疲れてしまうからです。

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きょうだいで「温度差」があるときは

もうひとつ、現場でとてもよく見る壁があります。きょうだい間の温度差です。

近くに住んで日々の変化を見ている人と、離れて暮らしていてたまの電話で話す人とでは、親御さんの見え方がまるで違います。「そろそろ施設かも」と感じている側が、「まだ大丈夫だろう」と言う側に責められるような形になって、疲れてしまう——本当によくある光景です。

ここで役に立つのも、②で作った1枚のメモです。感情で「大変なの!」と伝えるのではなく、「朝の薬が5種類あって、先月は2回転んだ」と事実で共有する。それだけで、話が驚くほど前に進むことがあります。説得しようとせず、まず同じ景色を見てもらう。遠くのきょうだいには、たまの帰省時に半日だけ介護を代わってもらうのも、言葉より効きます。

まとめ:「そろそろかも」は、親孝行の始まりの合図です

最後に、この記事の3つの一歩をもう一度。

1. 要介護認定を確認する(未申請なら申請を。状態が変わっていれば区分変更を)
2. 親の「今」を1枚に書き出す(体・医療・お金・本人の言葉)
3. 地域包括支援センターにつながる(ふわっとした段階の相談でいい)

どれも、今週中にできることばかりです。目安を添えるなら、①の確認は電話1本か保険証を見るだけ、②は夜のテレビの時間に30分、③は昼休みの電話1本。合計しても、半日かかりません。そして、この3つを済ませたご家族は、いざというときに慌てずに、親御さんに合った住まいをじっく選べます。

「施設を考えるなんて、親を見捨てるようで…」

窓口で、何度この言葉を聞いてきたか分かりません。そのたびに、私はこうお伝えしています。

施設を考えることは、見捨てることではありません。「共倒れせずに、この先も親を支え続けるための方法」を探すことです。

ここまで読んでくださったあなたは、もう最初の一歩を踏み出しています。どうか、ひとりで抱え込まずに。あなたと親御さんのペースで、進んでいきましょう。

よくある質問(Q&A)

Q1. 要介護認定の申請は、どこでできますか?
A. 親御さんがお住まいの市区町村の介護保険窓口、または地域包括支援センターで申請できます。ご家族による代理申請も可能です。申請から結果が出るまで、おおむね1ヶ月かかります。

Q2. 親の施設探しは、何から始めればいいですか?
A. まずは「要介護認定の確認」「親の状態・お金・本人の気持ちの書き出し」「地域包括支援センタヴへの相談」の3つです。施設のパンフレット集めや見学は、この3つのあとで十分間に合います。

Q3. 地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談に、お金はかかりますか?
A. かかりません。地域包括支援センターの相談は無料です。ケアマネジャーによるケアプラン作成なども、介護保険から全額まかなわれるため自己負担はありません。

※本記事の制度情報は2026年7月時点のものです。要介護認定や施設の入居要件の詳細は、お住まいの市区町村・各施設にご確認ください。