親が施設を嫌がるとき──現役ケアマネが使う声かけと、やってはいけない言い方

「施設なんか、絶対に行かん」

この一言で、話が止まってしまったご家庭を、私は何十件も見てきました。

こんにちは。介護の現場で23年、いまは主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)として働いています。担当したご家庭は400件を超えます。

準備は整った。お金の目処もついた。良さそうな施設も見つけた。それでも最後に残るのが、この壁です。

先にお伝えしておきます。この壁を「説得」で越えようとすると、たいてい失敗します。

この記事では、私が現場で使ってきた声かけと、逆効果になるやってはいけない言い方を、包み隠さずお伝えします。魔法の言葉はありません。でも、順番と言い方を変えるだけで、驚くほど景色が変わることがあります。

読み終わるころには、明日もう一度話しかけるための、最初の一言が見つかっているはずです。

なお、施設を考えはじめたばかりの方は、先にこちらもご覧ください。
👉 「親の介護、そろそろ施設かも…」と思ったら最初にやる3つのこと


まず、「嫌だ」の中身を分けてください

「施設は嫌」という一言の中には、まったく違う気持ちが混ざっています。ここを分けないまま説得すると、相手の本当の不安に一つも触れないまま、会話だけが終わります。

現場でよく出会うのは、次の5つです。

1.知らないから怖い
テレビで見た「施設で虐待」のニュース。昔の「姥捨て山」のイメージ。中を見たことがないから、想像が悪い方へ膨らみます。

2.家族に捨てられると思っている
「私はもう要らん人間なんやな」。この気持ちが根にあると、どんな説明も届きません。

3.自分はまだ大丈夫だと思っている
実際に転んでいても、火を消し忘れていても、ご本人の中では「まだやれる」。これは意地ではなく、認知症の症状(病識の低下)であることも多いです。

4.家を離れたくない
何十年も暮らした家、庭、仏壇、近所付き合い。手放すのは、生活ではなく人生の一部です。

5.お金の心配をしている
「そんな高いところ、払えるわけない」。子どもに負担をかけたくない気持ちの裏返しです。

あなたの親御さんは、どれでしょうか。

たいていは複数が混ざっています。でも、必ず「いちばん強い1つ」があります。そこにだけ応える。これが出発点です。

施設をいやがる理由を5つに分け、それぞれに使う最初の一言を並べた図

声かけの前に──やってはいけない5つの言い方

声かけをお伝えする前に、先にやめたほうがいいことからです。良い言い方を覚えるより、こちらのほうが先に効きます。

①「もう限界やねん」

ご家族の本音であることは、私もよく分かります。実際に限界であることも多い。

けれどこの言葉は、ご本人に罪悪感を渡す言い方です。受け取ったご本人は「自分がいるから娘が苦しんでいる」と考えます。そして、その苦しさから逃れるために——より頑なに拒むか、極端に落ち込むか、どちらかに振れます。

どちらも、話が前に進む方向ではありません。

②「ちょっと入院するだけやから」

つらさのあまり、ご家族がつい使ってしまうことのある言い方です。ただ、私はおすすめしません。後で必ず気づきます。

そのときに失われるのは、施設への信頼ではなく、ご家族への信頼です。一度こうなると、その後どんなに丁寧に説明しても、話を聞いてもらえなくなります。

③「みんなそうしてるよ」

説得のつもりで出てくる言葉ですが、ご本人は「みんな」の話をしているのではありません。自分の話をしています。

一般論を持ち出された瞬間、ご本人は「この子は私の話を聞く気がない」と受け取ります。

④「入らへんのやったら、もう面倒みられへん」

追い詰められたご家族から、つい出てしまう言葉です。責める気持ちはまったくありません。

ただ、これは選択肢を奪う言い方です。奪われた人は、話し合いのテーブルから降ります。以後、何を言っても「どうせ決まってるんやろ」で返されるようになります。

⑤「この前も転んだやん」と、できないことを並べる

事実であっても、これは尊厳を削る行為です。しかも、責められた記憶は残らなくても、責められた感情だけは残ります。

認知症のある方の場合、これが特に強く出ます。内容は伝わらないまま、嫌な感情だけが積み上がっていく。話が進まなくなる、いちばん典型的な形です。


理由別・現場で使ってきた声かけ

1.「知らないから怖い」場合

説明より、体験です。

「入る話やなくて、見に行くだけ、付き合ってくれへん?」

決めるための見学ではなく、見るだけの見学として誘います。多くの施設は、食事の試食や1日体験を受け入れています。「1日だけ、お昼ごはん食べに行ってみよか」から入ると、驚くほど抵抗が減ります。

「見るだけ」は嘘ではありません。実際、見学は見るだけです。決めるのは、そのあとの話です。

見学のポイントは、こちらにまとめています。ご本人と一緒に行く場合は、最初の1〜2件はご家族だけで下見しておくのがおすすめです。
👉 施設見学で「ここだけは見て」——プロが必ずチェックする6項目

2.「捨てられる」と思っている場合

ここがいちばん繊細で、いちばん大事です。

やってはいけないのは、「そんなことないよ」で終わらせること。否定は、気持ちを閉じさせます。

私が現場でお伝えしてきたのは、こういう言い方です。

「お母さんを施設に入れたいんやなくて、私が倒れたら共倒れになるから、二人で長く続けられる形を探したいねん」

主語を「あなた(親)」から「私たち(家族)」に変える。これだけで、伝わり方がまったく変わります。

そしてもう一つ、必ず添えてほしい言葉があります。

「行った先にも、私は毎週会いに行くから」

施設に入ることは、関係が切れることではない。それが伝わるかどうかが、この壁の高さを決めます。

3.「自分はまだ大丈夫」の場合

先ほど書いたとおり、できないことの証拠を並べてはいけません。

代わりに、こう言い換えます。

「お母さんが元気なうちに、二人で見ておきたいねん。倒れてから慌てて決めるのは、いちばん困るから」

元気だからこそ、いま選べる。 この言い方なら、ご本人の「まだやれる」という自負を否定せずに、話を前に進められます。

もう一つ有効なのが、第三者から言ってもらうことです。かかりつけ医、ケアマネジャー、昔からの友人。

家族が言うと「意見」になり、他人が言うと「情報」になります。 特にかかりつけの先生の言葉は、家族の百回の説得より重いことが、本当によくあります。

「うちの親、家族が言うと聞かないんです」——遠慮なく、担当のケアマネに言ってください。私たちはその役目も引き受けます。

4.「家を離れたくない」場合

この気持ちは、否定してはいけません。むしろ、こちらから認めます。

「家がいちばんやんな。私もそう思う」

そのうえで、二段構えで考えます。

まず、在宅で伸ばせるだけ伸ばす。デイサービス、訪問介護、ショートステイ、福祉用具。使えるサービスを組み合わせれば、在宅の期間はかなり延ばせます。それでも難しくなったときに、次を考える。この順番を、ご本人にも見せてあげてください。

そして、施設を考える段階になったら、家の要素を持っていくという手があります。使い慣れた椅子、仏壇(小さいものなら可の施設もあります)、写真、庭の鉢植え。「家を捨てる」ではなく「家の一部を持って移る」に変えるだけで、受け止め方が変わります。

5.「お金の心配」の場合

これは、事実で応えるのがいちばんです。

「お母さんの年金で入れるところを探してるから、大丈夫やで」

そのために、先に費用の全体像を掴んでおく必要があります。年金額で入れる施設は実際にありますし、負担を軽くする制度もあります。
👉 老人ホームの費用、結局月いくら?──料金表には載らない「実際の総額」の見方

「子どもに迷惑をかけたくない」という気持ちが根にある場合は、こう添えてください。

「お母さんが無理して家におって、私が仕事を辞めるほうが、よっぽど迷惑やで」

少し強い言い方ですが、これで納得された方を、私は何人も見てきました。


話すときの5つの原則

理由が何であっても、共通して大事なことが5つあります。

1.一度で決めようとしない
1回の会話で結論を出そうとすると、たいてい決裂します。「今日は話しただけ」で終わっていい。何度も、少しずつ。

2.体調と時間帯を選ぶ
夕方は認知症の方が不安定になりやすい時間です。朝〜昼の、体調が良いときに。

3.大人数で囲まない
きょうだい全員で説得すると、詰問になります。ご本人から見ると「取り囲まれている」構図です。いちばん話しやすい一人が、静かな場所でゆっくり話す。

4.選んでもらう
「入る・入らない」の二択ではなく、「AとB、どっちが良さそう?」に変える。決定権が自分にあると感じられると、人は前に進めます。

5.心配は「私」を主語にして伝える
「危ないから、もう無理やって」ではなく、「私が、心配で夜眠れへんねん」。前者は評価で、後者は気持ちです。評価には反論できますが、気持ちには反論できません。

親と施設の話をするときの5つの原則とNG例を並べた図

場面別・そのまま使える言い方

「家に帰りたい」と言われたとき

入居後にいちばん多い言葉です。ここで「もう帰られへんねん」と事実を突きつけるのは、いちばんつらい対応になります。

「帰りたいよな。……今日は寒いし、もう少ししてからにしよか」

否定せず、時間軸をずらす。この形が、いちばんご本人を傷つけません。

入居直前に「やっぱり行かない」と言われたとき

直前の翻意は、珍しくありません。多くの場合、これは拒否ではなく不安の表れです。

「不安やんな。……何がいちばん心配?」

理由を一つ聞き出せると、たいていは動きます。「荷物どうなるの」「私の湯呑みは持って行ける?」——不安の正体は、驚くほど小さなことだったりします。

同じ話が何度も繰り返されるとき

説明を繰り返さないでください。同じ答えを、同じトーンで返すほうが、ご本人は落ち着きます。

目指すのは納得ではなく、安心です。


それでも動かないとき──「待つ」も選択です

正直に書きます。ここまで全部やっても、うまくいかないことはあります。

そのとき、待っていい場合と、待ってはいけない場合があります。ここだけは、見分けてください。

待っていい場合

  • 介護しているご家族に、まだ余力がある
  • 火の始末、服薬、外出に大きな危険が出ていない
  • ご本人の身体状況が、急には変わっていない

この場合は、3か月後にもう一度話すくらいの構えで大丈夫です。季節が変わり、体調が変わると、答えが変わることは本当によくあります。

「説得できなかった」のではなく、まだそのタイミングではなかった」。そう考えてください。

待ってはいけない場合

  • 介護しているご家族が、心身ともに限界に近い
  • 火の不始末、外に出て帰れないことが起きている
  • 転倒が増えている、食事が取れていない

このどれかに当てはまるなら、待つ理由はありません。倒れるのがご家族のほうになれば、共倒れです。

このときは、ご本人の同意を待ちながら、同時にショートステイなどで物理的に距離を取る手を打ってください。担当のケアマネジャーに「限界です」と伝えていただければ、私たちはそのための段取りを組みます。遠慮は要りません。

私自身、ご家族から「もう限界です」と電話をいただいて、こちらから親御さんに会いに行ったことが何度もあります。第三者が入るだけで動く場面は、本当にたくさんあります。


最後に──罪悪感について

施設のご相談に来られるご家族の、ほぼ全員が同じことを言われます。

「見捨てるみたいで」

23年この仕事をしてきて、私はこう思っています。

施設に入っていただくことは、介護をやめることではありません。介護のやり方を変えることです。

毎日の食事・排泄・入浴を専門職に任せて、ご家族は「娘」「息子」に戻る。手が空いた分、顔を見に行って、手を握って、昔の話をする。その時間のほうが、ご本人にとってずっと大事だということを、私は何度も見てきました。

そして、もし親御さんが最後まで嫌がったまま入居することになっても——それはあなたの失敗ではありません。共倒れを避けるという、家族を守る決断です。

入居してしばらく経ってから、「ここに来てよかった」と言われる方は、実はとても多いです。「あんなに嫌がってたのに、いま毎日カラオケしてます」——現場では、こういう報告のほうが、むしろ普通です。


まとめ|説得ではなく、不安に応える

  • 「嫌だ」の中身を5つに分けて、いちばん強い1つに応える
  • 先にやめる(罪悪感を渡す/嘘/一般論/脅し/できないことを並べる)
  • 怖い → 説明より体験(見学・試食・1日体験)
  • 捨てられる → 主語を「私たち」に変える+「会いに行く」を添える
  • まだ大丈夫 → 「元気なうちに選ぶ」に変える/第三者に言ってもらう
  • 家を離れたくない → まず在宅を伸ばす。次に「家の一部を持っていく」
  • お金の心配 → 事実で応える(年金で入れる施設・軽減制度)
  • 一度で決めない/囲まない/選んでもらう/「私」を主語に
  • 待っていい場合と、待ってはいけない場合を見分ける

最後にもう一度だけ。

施設を考えることは、親御さんを見捨てることではありません。共倒れせずに、この先も支え続けるための方法を探すことです。

その道のりで迷ったとき、私たちケアマネジャーは、いつでも間に入ります。一人で背負わないでください。


よくある質問(Q&A)

Q1. 認知症の母に施設のことを説明しても、次の日には忘れてしまいます。どう進めればいいですか。

説明を覚えていただくことは、目標にしないでください。

内容は忘れても、「嫌なことを言われた」という感情は残ります。ですから、繰り返し説明するほど逆効果になることがあります。

進め方としては、説明ではなく体験を重ねる方法をおすすめしています。ショートステイやデイサービスで、その場所と職員に少しずつ慣れていただく。「知らない場所」が「知っている場所」に変わると、それだけで抵抗はかなり下がります。

言葉をかけるときは、「安心できる場所だよ」「私も一緒に行くよ」と、短く、穏やかに。判断が難しい状態のときは、担当のケアマネジャーや主治医に相談し、ご本人の意思をどう尊重するかを一緒に考えます。

Q2. きょうだいで意見が割れています。同居している私は限界ですが、遠方の弟が反対します。

非常に多いご相談です。

まずお伝えしたいのは、介護の負担を実際に負っている人の意見が、いちばん重いということです。

そのうえで、進め方をひとつ。感情ではなく事実を共有してください。「大変なの」ではなく「先月は2回転倒した」「薬が朝5種類ある」と、具体的に。

そして、遠方のごきょうだいに、半日でいいので代わってもらってください。 議論より、これがいちばん早く伝わります。

それでもまとまらない場合は、ケアマネジャーを間に入れてください。 家族間の説明は感情が乗りますが、専門職が状況を説明すると「情報」として届きます。家族会議に同席する形も取れますので、遠慮なくお申し付けください。

Q3. 本人の同意なしで、家族の判断だけで入居させることはできますか。

原則として、ご本人の同意なく入居していただくことはできません。

入居契約は、ご本人(またはご本人を代理する権限のある方)とご施設の間で結ぶものです。ご家族であっても、ご本人の意思を無視して契約を成立させることは、原則としてできません。なお、成年後見人が付いている場合は、後見人が入居契約を代理で結ぶことはできます。ただし、後見人にも「ここに住みなさい」とご本人の居所を強制する権限まではありません。実際には、ご本人の意思をどう尊重するかを、後見人・ケアマネジャー・主治医で相談しながら進めていきます。

ただし、ご本人や周囲の安全が守れない場合(火の不始末、深夜の外出、暴力など)は、緊急性を優先せざるを得ないこともあります。その判断は、ご家族だけで背負わないでください。必ず、担当のケアマネジャー・主治医・地域包括支援センターにご相談ください。

現実的には、「同意を取りにいく」のではなく、この記事でお伝えした声かけを重ねて、ご本人の気持ちが動くのを待つのが、いちばん確実な道です。時間はかかりますが、無理に進めた入居は、後から必ず難しくなります。


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※本記事の内容は2026年8月時点の一般的な情報です。個別の状況については、お住まいの地域の専門職にご相談ください。